









人生論や哲学のみならず、山岳文学、画集、小説、翻訳など多岐にわたるジャンルで活躍した著者の、エッセイ集。山と旅の随想27編を収録。わかりやすく、明瞭な表現で、人間と自然との関係を綴る。深遠な知が豊饒な世界を描く。(紹介文より)
雲の憩う丘
丘の上に辿りついて見上げた雲は
どれも丸まると太っていた
雲はめいめいの落とした影を
丘の草原の上で絡ませ合って遊び
そのほかのすべてを忘れていた
それは放たれた羊を想わせる静けさであった
私は若草の中に坐って草笛を吹いた
その音の寂しいわななきに気がついて
日向の柔らかい火照りに似た恥ずかしさを覚えた
それで鳴らしていた草を噛んだ
この丘に憩いの空を見つけた雲は
終日同じように戯れていた
太陽が赤く傾いて日暮れを告げると
雲はそれに応えて色付きながら
遠くに光る海へ並んで帰って行った
私は雲ほどに賢くなかった
丘の小みちを下って行くと
夕闇の麓で犬の吠えているのが聞こえた
大判の串田孫一作品は一冊持っておきたいものです。おおらかな雰囲気を、本のサイズからも感じられます。
|作者|串田孫一
|出版年|昭和45年初版
|サイズ|約272×191mm
|状態|外函には細かなスレ・汚れ・キズ、本体には細かなスレが見られます。